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Voice01中島花キ園芸 中島和輝さん・智加さん

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「花の価値観」を育てた東京での経験

祖父の代からの花卉農家に生まれた和輝さん。花に対して特別な興味はなかったけれど、「いつかは自分が継ぐのかな」という意識はあったそう。北佐久農業高校(現・佐久平総合技術高等学校)園芸科を卒業後、デザインへの興味と「上京して一人暮らし」への憧れから、東京のフラワーアレンジメントの学校に進みました。周りは年上の女性ばかりで馴染めずにいた頃、テレビで男性のフラワーアーティスト・東信(あずままこと)さんの存在を知り、花への関心が高まったといいます。

「可愛らしいとか可憐、という花のイメージが変わりました。東さんの作品はとても男性的で洗練されていて、こんなのあるんだ! と驚いたんです」(和輝さん)

それから数年間、「都会にしかないような花屋さんをたくさん経験する」という目標をもち、都内の複数の生花店で働きました。店頭で花を売るのではなく、お店の中などを花で飾る「生け込み」の経験を積みました。

中でも和輝さんの"花の価値観"のルーツとなったのが、イベント会場やホテル、ショールームなどの装飾を専門とする花屋での仕事です。

「大手自動車メーカーのショールームでは、毎週日曜日にデザインチェンジがありました。発表された新車に合わせて『テーマカラーは赤で、モダンな雰囲気に......』など、ベテランの方が先方の担当者と打ち合わせてデザインを決め、僕らが手となり足となり、生け込みを作るんです。この店にいたのは1年くらいですが、一番刺激と影響を受けました」

「提案できる花農家」を目指して

作業場を改装してアトリエショップにする計画も進行中

作業場を改装してアトリエショップにする計画も進行中

23歳のとき、父が病気で働き手が必要だと連絡を受けて帰郷。それから3年後に父が他界し、和輝さんが経営を引き継ぎました。今、あえて父の時代とは異なるやり方に挑戦しています。

ひとつは、育てる花の品種です。父の代ではカーネーションとバラがメインで、和輝さんいわく「ひとつのものを突き詰めていくやり方」でした。一方で和輝さんは、気になったものは何でもやってみる主義。

「花農家って、自分の作っているもの以外の花には興味がない人も多いと思います。昔は、ひとつの品種に集中して良いものを作れば売れたのでしょう。でも、海外産のものも入って来たりする今は、より生産性を上げることを考えなければなりません。それには、特定の花のことだけでなく園芸のことをよく知り、市場やその先の消費者の方々にいろんな提案ができた方がいいし、その方が楽しいですよね」

SNS上の情報や市場の担当者の話からニーズのありそうな花を取り入れるほか、種子会社に足を運び、発売前の品種のサンプルを入手して試すこともあります。種を蒔くタイミングや花の種類を工夫し、ひとつのハウスで年に何回転の栽培ができるかなど、実験にも余念がありません。

近ごろは野草や木の枝葉などを取り入れたフラワーアレンジメントも人気です。中島花キ園芸でも、ハウスと路地で栽培する花のほかに、畑のまわりに自生する草花を切り出して売るようになりました。それらを含めると常時20種類ほどを出荷しています。

2017年には、ドライフラワーの生産と小売も始めました。その頃に育て始めたスターチスにドライフラワー用の需要があると聞いたことがきっかけです。

「ドライフラワーのお店にフラッと立ち寄ってみて、『あれ、可愛いな』と驚いたんです。一昔前にドライフラワーが流行ったときは好きになれなかったけれど、その頃とはずいぶん違ったものが作られるようになっていたんですね」

妻の智加さんも、「調べてみたら、可愛いドライフラワーがいろいろあって驚いた」と語ります。スターチスに限らずどんな花でもドライにできると知って興味が増し、自分でもスワッグ(壁にかける飾り)を制作するように。今では、スワッグ作りのワークショップを開くこともあります。

働きやすい職場づくりで持続可能な農業に

多くの農家では、出荷の最盛期にパートさんの手を借ります。

和輝さん:「うちの出荷シーズンは5月から12月初旬までです。冬場はパートさんはお休みで、自分たちは春からの準備をしたり、休んだり、高速道路の除雪の仕事に出たり、というのが昔からのやり方でした。でも、人を雇用するということを考えると、これも改善すべき点だと思うんです」

年間を通じて働ける場とするにはどうするか。ハウスに暖房を入れ、冬も花を作ることはできます。しかし、「それだけが解決方法ではない」と和輝さん。花そのものと花の業界について深く知ることで、働き方の問題も解決しようとしています。その方法のひとつが花農家の6次産業化で、「今年は冬もパートさんに来てもらって、ドライフラワーの生産や販売を手伝ってもらいたい」と考えています。

農家の仕事というと、畑で汗をかきながらの重労働がイメージされます。しかし花卉農業は野菜や果樹の栽培に比べ、重いものを持ったり高所で作業したりすることが少なく、分担すれば色々な人が関わることができます。和輝さんの祖母も、2年ほど前まで作業場の一角に座って花の芽を取るなどの仕事をしていました。

パートさんにも、なるべく時間や体力、経験に左右されない仕事を担当してもらい、週に数時間でも、都合の良いときに来られるような働き方を実現しようとしています。出荷シーズンに担当してもらうのは、和輝さんが畑で収穫してきた花を切りそろえたり、一定数ずつ束ねてスリーブ(花を包む透明の資材)に入れたりといった室内での軽作業です。

「暑い中での草取りなんかは、僕が引き受けます。畑の面積を広げているので手が回っていないところもあるんですけど(笑)、あまり手をかけなくても育つ品種を取り入れるなど、省力化の工夫も進めているところです。そうやって誰でも働きやすい環境を整えることで全体の生産性が上がるし、持続的な経営につながると思うんです」

パートさんには、週に数回、都合の良い時間に働いてもらう

パートさんには、週に数回、都合の良い時間に働いてもらう

移住者との関わりで発想が広がる

現在は、ここ数年の間に移住してきた子育て中の女性が数人、パートタイムで働いています。これは和輝さんにとって、人手不足を解消すること以上の意味があるようです。

「ドライフラワーをネットで販売していますが、買ってくれる方の反応を知る機会がなかなかありません。だから、パートさんが『これが可愛い』なんて、消費者に近い感覚で意見を言ってくれるのがとてもありがたくて。
普段は畑と作業場で過ごしていて人との交流が広がりにくいから、パートさんがきっかけで新しいつながりができるのも嬉しいことです。他の地域から来た方々から新しい価値観を学べるんじゃないか、という期待もあります」

プロにはないフレッシュな視点を持つ人たちとの会話で発想が広がった結果、作業場を改装してお店にしようという計画も動き出しています。

暮らすのにちょうど良く、人が優しい町

8歳と5歳の子どもを育てる親でもある和輝さんと智加さんに、「佐久穂町ってどうですか?」と尋ねてみました。

和輝さん:「川での釣りなど昔ながらの遊びもできるし、インフラ面で困ることもない、暮らすのにちょうど良い場所です」

智加さん:「佐久市の友だちは、夏になると山の方にカブトムシを取りに行くって言うんです。でも、ここではわざわざどこかに行かなくても、その辺に落ちてます(笑)」

情にあふれる優しい人が多いのも、この町の魅力のようです。移住者へはこんなアドバイスをくださいました。

智加さん:「都会に比べると、地域の関係性は強いです。自分から積極的に関わっていくと、暮らしやすくなるんじゃないかと思います」

和輝さん:「地区や団体という単位では、昔からのやり方があるからとっつきにくい印象があるかもしれません。でも、個人として付き合えば、皆さんすごくいい人です。頼られれば喜んで助けてくれる人が多いですよ」

町の人の声一覧

  1. 中島花キ園芸 中島和輝さん・智加さん

  2. 大栄建設 三石博明さん・ふじ江さん・ 庄司紀子さん

  3. 小林守正さん